フランクロイドライトの帝国ホテル NO.2 エントランスからロビー
<エントランスからロビーへ >
帝国ホテル内部へのアプローチとしては西の日比谷公園側よりエントランスホワイエへ至るルートと、北の日生劇場側よりプロムナードへと続くルート、及び東側からキャバレーレストランへ至るルートの3通りがあります。
いずれもそれぞれ特徴があり心はずむ仕掛けがありますが、今回は初回でもありますのでメインエントランスからロビーへと入ってみましょう。
日比谷通りから池を見ながらポルトコシエ(車寄せ)へと向かう。この池は40x80フィート(12x24m)ありますが、この寸法はこの建築の基本モジュールである4フィートの倍数になっています。
記録によればライトはこの池を設計の出発点として大変重要視したと言います。この池の大きさが、ロビー及びメインダイニングの面積と一致しています。
明治村には、この池も再現されていますので、池を見ながらエントランスへ向かうアプローチの雰囲気はよく伝えています。 しかし、実際の建物ではこの池の南北に、貴賓室を西端に配した客室棟があり、空間をひきしめていますが、 明治村にはその貴賓室がありませんので間が抜けた感は否めません。
さてポルトコシエから、建築の規模からすると低過ぎるかとも思える高さ8フィート(2,440mm)のエントランスドアを通り、 ホワイエを数歩進むと眼前に3層吹き抜けロビーの視界が開けます。 この吹き抜けの高さは7.5m程ですが、この導線効果で実際より高く、ダイナミックな印象を与えます。 そして目を奪うのが吹き抜けの4隅を支える光の柱です。これほど存在感のある柱は類を見ません。
<光の柱>
実は取り壊される前の何年かはこの柱に照明が入っていませんでした。 その理由はメンテ上なのか、消防等の安全上なのか明らかでありませんが、訪れる客はこの柱の素晴らしさ、 デザインの意味を知らずじまいで通り過ぎていたのです。
<ロビーとダイニングは設計上完全に一体>
ここに掲載した実物ロビーの写真は明石信道氏著「旧帝国ホテルの実証的研究」より拝借した村井修氏撮影のものですが、 ホテルが営業停止して、取り壊される直前に明石氏の要望でわざわざ柱に照明を入れて撮影されたものです。
さすがに現在明治村に移設された建物では、その柱の意味を理解し照明が入っていました。
このロビーから東の奥に続くのがメインダイニングです。ロビーとダイニングは設計上完全に一体のものです。 「旧帝国ホテルの実証的研究」の写真ではロビーの奥にメインダイニングが見えます。 ところがこの移設された建物はエントランス、ロビー、ラウンジの部分のみでメインダイニングがないため、 大木をバッサリと断ち切ったかのような無残なものになっています。 できることならメインダイニングも移設してもらいたかったと惜しまれてなりません。
さて照明による光の柱を説明してきましたが、自然光の扱いも素晴らしいものです。
吹き抜け3層目のアッパーギャラリーの格子窓から差し込む光はロビーの床面中央に届くように計算されており、 ソファーで憩うお客は木漏れ日のような光の帯を楽しむことができます。
そして何よりこの空間で感じるのはスケール感の緻密さと的確さです。 訪れる人はどの位置にいても違和感なく包み込まれるようなあたたかさと落ち着きを感じます。 このことは帝国ホテルに限らず、ライトのすべての建築に言えることですが天才にして成し得ることとしか言いようがありません。